ご挨拶

 「環境」と「エネルギー」は人類が健康や豊かさを保ちながら持続的に発展するうえでの重要なキーワードです。低環境負荷型社会の実現には多くの活動がありますが、「環境」と「エネルギー」を両立させるためのエネルギーシステムの構築には新しい高性能・高品位の材料が必要です。室蘭は「ものづくりのまち」として有名であり、火力・原子力用材料を含むエネルギー材料開発研究・教育の北の拠点として重要な役割を担ってきました。室蘭工業大学はこれらの活動を支え、発展に寄与してきましたが、世界に飛躍できる「環境・エネルギーシステム材料研究」の拠点の形成をめざして平成21年度末に設立された部局横断型の組織が「環境・エネルギーシステム材料研究機構(Organization of Advanced Sustainability Initiative for Energy System/Materials、以下「OASIS」という)」です。
 OASISは、本学の伝統を活かし新産業の創出にも貢献すべく活動してきました。OASISの飛躍的な成長は競争的資金の獲得による外部資金を背景としたものであり、世界を先導するセラミック複合材料の研究開発を中核として発展してきています。

 FEEMA計画は平成21年に設立された先端研究施設「FEEMA」を学外の共用に供し社会貢献を目指すもので、平成21年度の文部科学省 先端研究施設共用促進事業「複合極限環境評価法による先進材料開発事業」に採択され、同年11月より活動を開始しました。FEEMA計画の推進を通して、FEEMA施設の充実と研究成果の発信を行ったことがその後の競争的資金の獲得や外部との共同研究の拡大につながりました。平成25年度からは文部科学省 先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業へと発展し、企業のみならず大学・研究機関から多く利用されており、平成27年度までの累計利用実績は80件に達しました。また、有償利用実績も着実に増えており、平成28年度からはOASISによる自主事業として新しくスタートしました。
 施設面では、平成24年度補正予算での施設の高度化により、セラミックス繊維連続被覆装置や極微細硬度計測装置等の大型・先端施設を導入しました。これらの新鋭設備に加え、最新鋭の透過型電子顕微鏡の導入なども行われ、平成26年3月の耐震補強工事により一新した研究棟の中に、材料プロセス関連の施設を統合した“OASIS-West研究施設”が整備されました。さらに、電子顕微鏡やその他の分析機器と極微細硬度計測装置などの大型先端施設は“OASIS-North研究施設”として統合を進めています。また、これらの活動を推進するために精鋭の研究者や技術補佐職員を強化しており、OASISの組織整備が進展しています。
 OASISでは上記のFEEMA計画を含め、多くの大型事業に採択され、円滑な事業の推進と計画通りの完了を達成しており、事後評価や外部評価においても突出した結果が得られています。
 原子力の安全性を高める研究は、京都大学での香山研究室を中心とする研究として全国規模で進められてきました。これらの歴史に室蘭での新しい成果を加えることにより、平成24年度から2つの大型事業を行ってきました。文部科学省 エネルギー対策特別会計委託事業「高度の安全性を有する炉心用シリコンカーバイト燃料被覆管等の製造基盤技術に関する研究開発」(以下、「SCARLET計画」という)と、経済産業省革新的実用原子力技術開発費補助金補助事業「革新的安全性向上を実現させるセラミック複合材料の燃料集合体への適用技術開発」(以下、「INSPIRE計画」という)です。これらの計画では、ノルウェーのハルデン炉およびベルギーのBR2炉での先進セラミック複合材料の事故耐性燃料への実用化の重要な要素である原子炉中性子照射研究という世界に先駆けた活動も進めており、SiC/SiC複合材料の早期実用化を目指す生産技術の構築と機能実証が行われています。
 平成26年度に行った発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備委託事業「事故耐性燃料の実用化評価研究」(以下、「FIAT計画」という)は事故耐性に優れた軽水炉・炉心の開発をめざすもので、『全電源停止等の過酷な状況が発生した場合においても、原子力発電所において過酷事故(Severe Accident、以下「SA」という)を起こさない、あるいはSAへの事象進展を大幅に遅らせる』という大きな命題への挑戦でした。
 事故耐性にすぐれた燃料(Accident Tolerant Fuel、以下「ATF」という)は、原子炉の安全性高度化に向けた有力な概念として国内外で注目されており、OECD/NEA(Organization for Economic Cooperation and Development / Nuclear Energy Agency;経済協力開発機構/原子力機関)を始めとした国際協力でのATFの開発の議論も進んでいます。達成目標の一例は、2022年ころまでに炉心での冷却水喪失事故時における耐性を現行の燃料よりは十分に長く維持できる燃料を開発し、現存する軽水炉において試験を行う事です。この為の大きな目標として、(1)水素の発生を無くすか大幅に抑制する、(2)燃焼度を上げることにより使用済燃料の発生を抑える、(3)燃料被覆管の破損を抑え信頼性を大幅に向上させる、(4)経済性を向上させ、出力向上を許容する、事などが挙げられています。関連する材料技術分野などにおいて先行している我が国の優位性を活かし、今後の原子力産業を我が国が牽引するためにもこれからの活動は重要です。

 環境にやさしい革新的な地熱発電のための研究としては、科学技術振興機構 研究成果最適展開プログラム「加圧水型DCHE方式地熱発電用の耐環境・長寿命セラミックス複合材料2重鋼管の開発」(以下、「SIRIUS計画」という)をグンゼ株式会社と共同で推進しました。加圧水型DCHE方式は地熱のみを取り出し循環への影響を最大限低く抑える方式であり、電気の安定供給や電力コストの減少が期待されます。SIRIUS計画では、外管の耐熱・耐環境材料を重点的に開発しました。また、平成27年度からは加圧水型DCHE方式の地熱発電を成立させる重要な要素技術のひとつである、高性能断熱内管の研究開発が科学技術振興機構のマッチングプランナープログラムに採択されており、新概念の断熱内管の開発および同素材を用いたデータ取得を進めています。これらの研究開発成果は加圧水型DCHE方式地熱発電のみならず、マグマ発電などの更に過酷な環境での使用に耐えうるポテンシャルを有している事から、日本が豊富に保有する地熱エネルギー開発を一層促進する物と期待しています。
 OASISでは、この他に国際共同研究や国内共同研究、企業からの受託研究なども幅広く実施しています。国際共同研究としては核融合研究分野でのITER計画、BA(幅広いアプローチ)計画、第4世代原子炉開発活動への参加などを行っています。また、素粒子物理学の研究に用いられる大型加速器科学への貢献となる高性能粒子ターゲットの開発や高性能ロケット要素部材の開発など幅広い工学研究も積極的に主導し、進めています。
 これらの活動を通じて、北海道・東北エリアの学術発展・地域産業振興・人材育成に貢献するとともに、OASISを世界トップレベルの先進エネルギー材料研究開発拠点へと成長させたいと考えております。
 みなさまのご協力およびご指導をお願い申し上げます。

平成28年7月1日


室蘭工業大学 環境・エネルギーシステム材料研究機構
機構長、特任教授
香山晃
室蘭工業大学 環境・エネルギーシステム材料研究機構(OASIS)機構長、特任教授

香山晃 機構長

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略歴
1945年 満州国新京に生まれる
1964年 東京都立西高等学校 卒業
1969年 東京大学 工学部冶金学科 卒業
1971年 東京大学 工学系大学院修士課程 修了
住友金属中央技術研究所 勤務
1974年 東京大学工学部材料学科 勤務
(助手・講師を経て1981年より助教授)
1995年 京都大学原子エネルギー研究所
(改組により1996年よりエネルギー理工学研究所)
教授就任(2007年:同・研究所長)
2009年 室蘭工業大学 教授就任
2010年 環境・エネルギーシステム材料研究機構 機構長就任

上記の間、核融合炉材料の照射損傷、鉄鋼材料の接合技術・溶接現象、金属器複合材料、セラミック複合材料、核融合炉・原子炉材料、航空宇宙材料等の研究を行っている。
東京大学工学部・大学院修士課程修了後住友金属工業・中央技術研究所勤務を経て、東京大学工学部、京都大学エネルギー理工学研究所において教育・研究を行い、エネルギー理工学研究所・所長を経て平成22年より室蘭工業大学に勤務、現在に至る。この間、日米協力核融合分野での研究プロジェクト(FFTF-MOTA計画、JUPITER計画、JUPITER-II計画等での研究調整官)の推進や先進複合材料開発の国プロ等に貢献した。

日本学術会議核融合専門委員会委員長、日本原子力学会核融合部会長、材料部会長等のほか、金属学会、セラミックス協会、核融合学会、溶接学会、高温学会、地熱学会、を始めとし、幅広い学会活動にも参加。日本原子力研究所客員研究員(平成28年度からは量子科学技術研究開発機構客員研究員として継続中)、核融合科学研究所客員教授、他海外の大学や研究機関での客員も務める。IAEAの核融合材料開発、BA活動、ITER事業等でも材料関連での指導的な役割を務めている。
SiC/SiC複合材料の研究においてはNITE法の国際特許を有し、実用化に向けた幅広いプロセス開発や実用化研究を進めている。NITE製品の市場投入をめざしベンチャー企業であるエネテック総研(IEST Co., Ltd,)の設立に参加。
特に、最近の原子力安全研究において重要視されている事故耐性の高い燃料研究においてはSCARLET計画、INSPIRE計画、FIAT計画をはじめとして大型の研究開発を進めている。セラミックス複合材料においては極めて困難と考えられていた、ジルカロイ管並みのヘリウムリーク耐性を実現したことは画期的な成果であり、世界初となる原子炉内での模擬燃料ピンの動的炉水環境下での照射実験にも成功しており、現在照射後実験を進めており、世界を先駆ける多くの照射データを発表し続けている。

平成28年4月1日での状況の補記
1:SCARLET計画においてノルウエー・ハルデンのエネルギー工学研究所(IFE)に搬入されたSiC/SiC複合材料製の燃料被覆管(両端にジルカロイ管が接合されたもの)に漏えいを探知するためのコレプシブルベローズを挿入し、ジルカロイの端栓を電子ビーム溶接して封止したセグメントを加圧型炉水条件の水ループに挿入し、HBWR(ハルデンの沸騰水型原子炉)にて中性子照射を行った。照射中の水化学データを含め、多くのデータが得られており、現在照射後試験が進められている。
2:FIAT計画において米国オークリッジ国立研究所(ORNL)にて1700℃の高温水蒸気中での腐食試験を実施し、安定した材料の耐久性を確認できた。(これまでの同種の他の製法によるSiC/SiC複合材料の試験ではいずれも材料の形状維持が達成されていない)
3:INSPIRE計画においては計画の一部変更に伴い、核燃料非装荷SiC/SiC複合材料製燃料被覆管を用い、ノルウエー・ハルデンのエネルギー工学研究所(IFE)での沸騰水型炉水条件の水ループ中のHBWR(ハルデンの沸騰水型原子炉)中性子照射を行った。SiC本来の優れた低放射化特性と共に炉水・中性子照射環境下でのSiC/SiC複合材料の健全性を確認した。